【漫画レビュー】バジーノイズがオシャレ漫画

突然だが、漫画バジーノイズって知ってる?実写映画が2024年5月3日に公開され、人気ボーイズグループ「JO1」の川西拓実が清澄役、「交換ウソ日記」の桜田ひよりが潮役でれぞれ主演を務め、気になっている人も多いと思うため、このブログで解説、レビューしていきたいと思う。

漫画バジーノイズはただの音楽漫画ではない

バジーノイズの主人公の清澄(きよすみ)は、「すきなもんいっこ、あればいい」とマンションの住み込み管理人として働きながら、大好きな演奏や作曲を細々と楽しむ日々を送っていた。部屋にあるのはベッドと、作曲用のPCとサンプラーといった機材だけ。管理人の雑務をこなして、帰宅後に作曲を楽しむ。このシンプルなルーティンを守るため、人間関係や成功、しがらみから極力離れようと暮らしていた。

そこに、清澄の上の階に引っ越してきたフリーター女子、(うしお)。によって清澄の生活に介入されることになる。下の部屋から聴こえてくる音楽を「めっちゃオシャレでよきやねん」とほめてきた存在だった。

住人からの苦情により清澄が演奏を禁じられてしまった夜、潮が涙で目をはらしながらチャイムを鳴らしてきた。彼氏のバンドマンに遊ばれていたことがわかり、あの音楽でいつものように癒やしてほしいと泣きぐずる。ミニマルな生活を求める清澄は「帰れよメンヘラ女」と追い返す。関係を持つな、この女も誰かと関わるから泣いている、おれはひとりでいい――そう思いつつも、自分の音楽をほめてくれたあの笑顔が頭を反芻する。とうとう清澄は禁を破り、上の階のために音を鳴らしまくる。すると「ガシャンッ」と窓ガラスの割れる音。なんと潮が上からベランダに降りてきて、フライパンでガラス戸を破壊してきたのだ。「こんなとこ閉じこもってんと、海いこ」。清澄は潮の介入によって、職と住処と同時にシンプルな生活を失ってしまう

と1話目からこのようにして主人公と潮は関係をもっていくんだが、この漫画の特徴的なところは他の音楽マンガは、主人公は楽器を演奏して飯を食べていこうとしているが、清澄は当初音楽でお金を稼ぐのは無理だと言い、部屋にこもり自分の好きな音をパソコンとシンセサイザーで鳴らしているだけの、さとり系男子なのだ。

絵も1枚1枚で魅せてくる漫画

マンガというのは音が出せない。そのため「どんな音楽が鳴っているか」を画的に表現するときは、音のパワーや質を、効果線や効果文字で描き表したり、コマの枠線を斜めに走らせたり突き破らせたりと、マンガ家はさまざまな創意工夫をなしてきた。しかし『バジーノイズ』は作品全体を通じて音楽表現の描き込みが圧倒的に少ない。「ドンッ パッ」「タタタン」みたいな効果文字は一貫して登場しない。マンガの演奏シーンでは演奏者や音のエネルギーを表そうと背景に流線が走りがちだが、これも真っ白。コマ割りも斜めや縦割りといった変形コマもなく、長方形か正方形のみ。キャラや背景も、少ない線で均一的に描かれる。代わりに、その真四角なコマ枠における構図と、白と黒のコントラストの美しさが光る。清澄の何もない部屋で、ノートPC、サンプラー、シンセサイザー、フローリングの床、エアコンの線がすぅっと走る。潮と外を歩くときも、柵、鉄橋の柱、電柱、電線、あらゆる直線がスタイリッシュに引かれている。このあたりが実にイラスト的で、音楽マンガにしてはインスタのような平面的な美しさを感じさせる。

こうしたシンプルな世界のなかでユニークに描かれるのが、「黒いモヤ」と「白い水玉」を使った心象表現だ。住民の苦情で演奏を禁じられたり、潮に介入されたり、清澄が煩わしさを感じたとき、頭の中から「黒いモヤ」が吹き出て画面をぐじゅぐじゅと埋め尽くす。清澄にとっての“ノイズ”を可視化したものだ。これが出てきたときはシンプルな画面を醜く汚してしまうので、読者も「うざったいな」と清澄と同じネガティブな感情を共有できる。一方で音楽を鳴らすときは、ノートPCや機材から「白い水玉」がシャボン玉のようにぷかぷかとあふれ出る。演奏するのがうれしくて微笑む清澄の周りをいくつもの玉が浮かんでいる光景は、画面にドットを使ってポップな装飾を施したようで、これまたイラスト的だ。水玉を描くだけで「幸福な音楽が鳴っている」というのを視覚的にわかりやすく伝えられるだけでなく、インスタ的な画面をよりファッショナブルに彩ることができるという、一石二鳥な発明だ。こうした画作りは新鮮で、音楽マンガ好きとしてもわくわくしてしょうがない。

著者 むつき潤氏について

この漫画の著者であるむつき潤氏は、兵庫県出身。2015年、『ハッピーニューイヤー』で第76回小学館新人コミック大賞青年部門大賞を受賞しデビュー。2018年より、「週刊スピリッツ」にて『バジーノイズ』(全5巻)を連載。2022年、「オリジナル増刊」にて、新連載『ホロウフィッシュ』をスタート。

「ホロウフィッシュ」の方は音楽漫画ではなく、恋愛漫画であるが、過去を引きずる少年が出会ったのは、どう見ても訳ありな謎の女性であった。そして、むつき氏の絵がさらに進化したこともあり、ミステリアスな雰囲気ただよう漫画に仕上がっている。気になる人はぜひ読んでみてほしい。

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